教育活動

我々は、人間の心の理解とはそれが適応する社会に対する脳の働きを理解することに他ならないと考えています。そのためには、脳の解剖学的・生理学的理解(すなわち生物学的理解)に加え、それが働きかける社会の仕組みもあわせて理解していかなければなりません。したがって、個と社会との相互作用によってできあがった「社会的心(脳機能)」が、我々の教育・研究の対象となります。社会的心とは、基本的な脳機能である「思考(知)」「感情(情)」「意思(意)」が環境適応的に相互作用した結果であると考えます。我々は、社会的心の中でも、1)人間の行動の経済的合理性と不合理性(経済観)、2)人間の倫理観とモラル(倫理観)、3)人間のシステマティックな対人関係(友愛観)を作り出す機能が基本的な脳機能からどのように発展し、実現されているのかを明らかにすることをめざします。

人材育成としては、まず基本的脳機能を研究する神経科学的方法について、大学院時代に実験、講義、討論を通して習得させます(脳科学研究所・工学研究科脳情報専攻には基礎的脳機能研究で世界をリードする研究者がそろっており、十分な基礎教育が期待できます)。その上で社会的心に関する3テーマのうち1つの共同研究に参加することにより、新しい融合的脳科学について考え、独自の道を切り開いていく能力を養います(脳科学研究所ではすでに3つのテーマの社会的脳機能に関する共同研究が始まっており、人文社会学・新融合領域の外部の非常勤研究員も多数参加しています)。このような先端的融合研究は、(1)まず核となる研究方法を身につけ、(2)その上で周辺領域との融合・統合をめざす必要があります。そのために、我々の拠点は大学院博士課程-ポストドクトラル課程一貫制を採用しています(2ステージ制)。ステージ1の修了要件を満たした院生は、ポスドクとしてあるいはポスドク待遇でステージ2に移行でき、国際公募によって採用されたポスドクは、融合研究のトレーニングの場としてステージ2に組み込まれます。しかし、ステージ1とステージ2の垣根は低く、ステージ1の院生が融合研究に関する特別講義を聞いたり、融合研究に関する討論に参加することもでき、ステージ2のポスドクでも必要に応じてステージ1の講義を聞いたり、実習に参加することもできます。

大学院生・ポスドクの基本的な教育は、玉川大学大学院工学研究科・農学研究科・脳科学研究所で行われますが、連携拠点であるカリフォルニア工科大学との交流・共同研究プログラムを通して、また理化学研究所・東京都神経科学総合研究所・昭和大学などとの連携を通して、長期・短期の研修はもちろんのこと、研修の枠を超えた、教育・共同研究も行われています。大学院生には、国際的な交流に必要な実践的な英会話・英語論文作成のための教育も行います。