目的

玉川大学の教育理念は、「人間文化のすべてをその人格の中に調和的に形成する」という全人教育です。同時に、全人教育は科学的に裏付けられたものでなければならないとも謳っています。玉川大学学術研究所脳科学研究施設は、この教育理念にしたがい、人間の心の科学的理解を進めるために1996年に設立され、2007年に玉川大学脳科学研究所へと発展的に改組されました。

人間を理解することは、その心を理解することであるとも言えます。人間の心はそれをはぐくんできた社会を反映し、また、我々は脳が心をつむぎだすとも信じています。したがって、心の理解とは、それが適応する社会に対する脳の働きを理解することに他ならないのです。社会に生きる脳の働きを理解するためには、脳の解剖学的・生理学的理解(すなわち生物学的理解)に加え、それが働きかける社会の仕組みもあわせて考えなければなりません。そのために、玉川大学脳科学研究所では、人文社会科学と脳科学の融合的研究を推し進めてきました。

脳科学研究の進歩によって、人間の心と行動に関わる学問は大きく変わろうとしています。この世界的な流れは、哲学・経済学などの人文社会科学においても例外ではありません。我々は、21世紀COEプログラムの活動を通して組織と設備の充実を図り、世界的にも注目される研究環境を整えることができました。

玉川大学グローバルCOEプログラムでは、これを拠点に人文社会科学と脳科学の融合的理解をより一層進め、人間の心の理解に関係する伝統的な学問の再構築ができる人材育成を行います。

人間は、その誕生以来、数千年・数万年にわたって、我々人間とは何かについて考えてきました。主に行動の観察と思弁からなるその成果は、我々の現代社会を支える基盤になっています。20世紀後半に現れた脳科学は、人間とは何かという問いについて、全く新しい視点からの知識を提供しはじめています。主に医学的・生物学的手法を使って、脳科学は人間の心を構成する「思考(知)」「感情(情)」そして「意思(意)」のメカニズムを、少しずつではありますが、科学的に説明しようとしています。
しかし、人間が人間である所以は、人間が社会の中で生きていることであり、人間と社会の間の相互作用の理解抜きには、人間の心の理解も不可能です。このことは、人間の心の脳科学的理解においても同様です。人間と人間、人間と環境が相互作用しあう中で、脳は「知」「情」「意」をどのように操作し、人間特有の豊かな「社会に生きる心」を生みだしているのでしょうか?
我々は、哲学・心理学・経済学といった人文・社会科学知見と脳科学を融合させることにより、「社会に生きる心」の解明に踏みだしました。玉川大学グローバルCOEプログラムでは、「社会に生きる心」の脳科学的理解に、つぎの4つの角度から取り組みます。すなわち、1)人間行動の経済的合理性と不合理性(経済観)2)倫理観とモラル(倫理観)3)人間と人間を結びつける対人関係(友愛観)、それに4)それらの脳機能を実現する遺伝子・分子から神経回路にいたる物質的基盤(神経科学基礎)の理解です。
玉川大学、連携拠点であるカリフォルニア工科大学、それと世界に広がる共同研究拠点のメンバーは、大学院生・若手研究者とともに、時に各自のテーマに専念して、時に統合的視点から議論・意見交換しながら、新しい心の科学の開拓に邁進していきます。

社会に生きる脳科学へ

求められる人物像の育成

  1. 新しい心の科学を開拓する研究者の育成
  2. 新しい人間観・社会観を持った教育者の育成
  3. 新しい社会のニーズに応え、またそれを開拓する技術者の育成