【レポート】
「Toward Solving Dilemma: The Approval Mechanism Approach」
西條辰義氏 (大阪大学社会経済学研究所・教授)

玉川大学グローバルCOEプログラム 特別講演会
「Toward Solving Dilemma: The Approval Mechanism Approach」

西條辰義教授
(大阪大学社会経済学研究所)

2012年3月23日、玉川大学にて大阪大学社会経済学研究所の西條辰義教授によるGCOE特別講演会が行われました。経済学者として著名な西條先生は社会制度の設計問題に取り組んでおられ、今回の特別講演では「囚人のジレンマ」と呼ばれる問題を解決する方法について、ご自身の研究を通して語ってくださいました。

囚人のジレンマとは、各プレイヤーが自己の利益だけを考えて選択を行った結果として、全体として最良の結果にならないことを示すゲーム理論のモデルの1つです。例えば、プレイヤーAとプレイヤーBが"協力"か"非協力"かのいずれかを選択するとします。相手がどちらを選択したかを知ることはできません。A、Bともに"協力"ならばA、Bともに14ドル、Aが"協力"でBが"非協力"ならばAには7ドル、Bには17ドル、Aが"非協力"でBが"協力"ならばAには17ドル、Bには7ドル、A、Bともに"非協力" ならばA、Bともに10ドルの4通りとなります。プレイヤーBの立場では、プレイヤーAが協力と仮定すると、協力より非協力を選択した方が7ドル多く利益が得られます。Aが非協力と仮定すると、協力より非協力を選択した方が3ドル多く利益が得られます。従って、Bは非協力を選択する方がよいということになり、それはAについても同様で、A、Bともに非協力を選択して10ドルとなります。もしA、Bともに協力を選択していれば、ともに14ドル得られ、非協力よりも利益が得られます。従って、利益を最大とするために、どうすれば互いに協力できるかを考える必要があります。

囚人のジレンマのような問題は実社会に見られるもので、公共財供給や核兵器開発、価格競争などが相当します。協力、非協力と呼んでいるものは、公共財供給の場合は個々の費用負担の額、核兵器開発の場合は開発の継続か停止か、価格競争の場合は値下げするかしないか、となります。囚人のジレンマは現実社会を理解するモデルとしては有効ですが、実際に制度設計を考えるにはより実際的である必要があります。そのためには、まず囚人のジレンマの状況だけを問題として捉えるのではなく、その前後の制度を考える必要があります。また、自分の利益を最大にしようとするmaximizerや自分の方が不利益を被る選択肢を嫌うinequality averter、相手の選択に対して互いの利益を考慮するreciprocator、相手の利益と自分の利益の総和を重視するutilitalianなど、様々なタイプの人々で構成される社会において、互いに協力を選択するような制度設計が必要です。これらを踏まえて、西條先生はApproval mechanismという方法を提言しています。

Approval mechanismは2つのステージに分かれています。最初のステージでは囚人のジレンマを行います。次の承認ステージではまず囚人のジレンマで相手が協力と非協力のどちらを選択したかが知らされ、その上で囚人のジレンマの結果を"承認"するか"拒否"するかを選択します。先の例の場合、プレイヤーA、Bともに"承認"ならば囚人のジレンマでの結果となり、どちらかが"拒否"すれば A、Bともに10ドルとなります。西條先生はこのApproval mechanismを導入してヒトの実験を行い、行動解析の結果、上記の4つの人のタイプの組み合わせのほとんどの場合で、囚人のジレンマのステージにおいてA、Bともに協力を選択するようになることを示されました。

囚人のジレンマの後に承認ステージを設けることで、あらゆるタイプの被験者間で互いに協力を選ぶようになったことは大変興味深いものでした。また、西條先生の研究がよりよい社会の実現を目標としていることに、非常に感銘を受けました。

日時 2012年3月23日(金)
場所 玉川大学8号館第2会議室
報告者 山口良哉(玉川大学大学院脳情報研究科・博士課程2年)