【レポート】
Thalamo-cortical information processing
Alessandro E. P. Villa氏

GCOE特別講演会
Thalamo-cortical information processing

Alessandro E. P. Villa氏
(Grenoble Institute of Neuroscience, Université Joseph Fourier, France)


 本講演では仏国Grenoble Institute of NeuroscienceのAlessandro Villa先生をお招きし、冷却によって第一次聴覚野を可逆的に機能停止させた際の視床核(内側膝状体(medial geniculate body、 MGB)と視床網様核(thalamic reticular nucleus、 RE))の単一ニューロン活動の同時記録データから先生が提唱する視床‐皮質系の情報処理モデルについて解説して頂いた。

 冷却による可逆的な機能停止法(reversible cooling)は薬理的な操作と比較して短時間で対象領域の神経活動をON/OFFすることができるため、対象領域(本講演では第一次聴覚野)の活動が線維連絡を持つ計測部位(本講演では視床核)に与える影響を短期間に検証することが可能な手法と言える。本講演では皮質の冷却によって視床の単一ニューロン活動特性がどのように変化するのかを、自発活動や聴覚誘発応答の様々なパラメータについて詳細に説明していただき、単一の視床ニューロンが複数の情報コードに関係している可能性や、それらが皮質の機能によって制御されながら適応型フィルタ(adaptive filter)として働いている可能性について、いくつかのネットワークモデルを参照しながら解説して頂いた。またVilla先生は独自の視点から多ニューロン同時記録データの解析を進められており、細胞活動の時空間的パターンに複雑ながら正確に繰り返されるパターンが存在することを示されていた。特にそうした繰り返しパターンがfreely behaving ratの聴覚弁別課題時において刺激提示前の待機状態中に観測され、それらの中には後続の弁別行動と一定の相関をもつタイプがあるという実験データは情報の分散表現の観点からも非常に興味深い。

 普段は齧歯類の海馬を研究対象にしている報告者であるが、その領域へ投射される神経線維が運んでくる情報の持つ意味・役割というものを改めてきちんと整理し仮説を立てながら検証していく必要性を強く感じた。装置のサイズ面でfreely behavingの齧歯類にこのcooling deviceをそのまま適用するのは困難であるが、可逆的なdeactivationが示すデータの説得力を感じる講演であった。また多ニューロン同時記録法を実験系に導入している身として、膨大なスパイク列データの中に埋没している活動パターンや「情報」をいかにして切り出してくるか、という問題は常に頭を悩ます問題であり、先生の示された手法は非常に興味深いものだった。個人的な感想になるが、Villa先生とは2007年の海外の学会(7th International Neural Coding Workshop、 Montevideo、 Uruguay)で知り合った経緯があり、来日の際には是非玉川でtalkをお願いしたいと話していたことが今回実現した形になり、非常に嬉しい講演会であった。

日時 2009(平成21)年2月6日(金)10:00~12:00
場所 玉川大学 研究センター棟 1F セミナー室
報告者 高橋 宗良(玉川大学脳科学研究所・ GCOE研究員)