【レポート】
System's reconsolidation and the active nature of memory maintenance
Karim Nader氏

グローバルCOE特別講演会

System's reconsolidation and the active nature of memory maintenance
講演者:Karim Nader (Psychology Department, McGill University)

本講演では、カナダのMcGill universityのKaim Nader先生にお越しいただき、近年先生が発見されたmemory reconsolidationについてご講演いただいた。Reconsolidationは、一度は長期記憶として安定化した記憶が想起されることにより不安定な状態になり、そして再び安定な状態に戻る神経システムを意味する。心理学では長い間、記憶というのはEncodingされ、Short term memory(STM)として一時的に保持された後、それが固定化(Consolidation)され、一度Long term memory (LTM)として安定した後にはその情報は忘却されない限り安定した状態のままであると考えられてきた。しかしながら、先生の研究によって長期記憶化した情報は想起されることで再びモジュレーションを受け、想起したときに得られる新しい情報を古い記憶中に組み込むことができることが明らかとなった。この現象が最も衝撃を受けた点は何と言っても心的外傷後ストレス障害(PTSD)の根本的な治療に生かすことが出来る可能性がある点であろう。

講演では、まず先生がreconslidationというプロセスを発見するにいたった経緯をお話された。それ以前の恐怖条件付けを用いた研究ではSTMとして保持されている情報がConsolidateされLTMとなるためには新たなRNAの転写とプロテイン合成を必要であり、この合成を阻害する薬剤(Anisomycine)を外側扁桃体(LA)に投与すると記憶がLTM化されないことが報告されていた。しかしながら、古くからLTMとなった恐怖記憶も強い電気刺激を与えると消去されてしまうなど、LTMとなった情報が変化したという報告が分散的に存在していた。Nader先生はLTM化した情報も何かしらのモジュレーションを受ける可能性があると考え、CS-USの恐怖記憶を条件付けし、14日経過後CSのみを再び呈示しreactivationするタイミングでプロテイン合成阻害薬を投与する実験を行った、するとその1日後にFreezingが大幅に低下することを見出された。

さらに先生は、このようなシステムはLAのみでなく、長期記憶に関する他の脳領域でも起こりうると考え、Hippocampusで作られLTMとなるに従って情報が移行されると考えられているAnterior cingulate cortex (ACC)についても研究を行っている。先生はDorsal Hippocampus (dHC)で作られた情報はconsolidationによってACCに移行するが、reactivationすることによって再びdHCに戻ってくるというシステムとしてのreconsolidationを仮説として提唱され、いくつかのそれを実証する実験を紹介された。

今回の講演では先生がreconsolidationというパラダイムを発見された経緯をお聞きすることが出来たのは貴重な経験となった。また先生はreconsolidationのような記憶固定化後のモジュレーションがシナプスレベルだけでなく、各脳領域間のインタラクションとしても起こっているという仮説は大変興味深かった。先生の研究はPTSDの治療の可能性として、医学界でも注目されている。これからのNader先生の研究成果に期待させていただきたい。

日時 2010年9月7日(火)11時00分~13時00分
場所 玉川大学研究管理棟5階507室 /参加者 25 名
報告者 渡邊言也 (玉川大学大学院工学研究科博士課程2年)