【レポート】
Instrumental Conditioning as Generative Behavior Supported by the Basal Ganglia - A Biologically-based Computational Model
Wolfgang Pauli 氏

GCOE特別講演会
Instrumental Conditioning as Generative Behavior Supported by the Basal Ganglia
- A Biologically-based Computational Model

Wolfgang Pauli氏
(Univ. of Colorado, U.S.A. )

 本講演ではアメリカ、University of Coloradoの大学院生であるWolfgang Pauli氏にご講演頂いた。Pauli氏はAttentionやAttentionが学習に及ぼす影響に興味をもたれており、EEGを用いた実験等を行われた経験を持っている。現在は前頭葉機能の計算論研究で高名なO'Reilly R.C教授の研究室でComputational modelingの手法を用いてAttentionやAttentionが学習に及ぼす影響がどのようなネットワークによって実現されるかを研究されている。今回は、大脳基底核の働きに関してComputational modelingの観点から大脳基底核のネットワークとしての機能についてご講演いただいた。

 大脳基底核は、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まりである。線条体、視床下核、淡蒼球に加えて中脳の黒質を加えていうことが多い。これらの神経核のネットワークにより、運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習など様々な機能を担っていると考えられている。近年、その役割の解明が生理学的な手法を用いて精力的に進められている。しかし、ネットワークによって成される大脳基底核の機能やメカニズムは生理学的な手法だけでは捉えきれないところも多い。そこでPauli氏はComputational modelingの観点から大脳基底核をネットワークとして捉えるというアプローチをとられた。本講演では、モデルの構成概念や各コンポーネントの期待される役割など基本的ところから詳しく丁寧に説明していただいた。また、モデルとしての妥当性をわかりやすく説明するため、生理学的な知見やデータを例として挙げられ、モデルの挙動も実演していただいた。モデルは大脳基底核において背側と腹側に分かれている2つのpathwayを模しており、現段階ではあまりその役割の理解が進んでいない腹側線条体の役割を推定することが可能となっている点が非常におもしろい部分であった。背側・腹側の線条体の役割を明確にするために、その機能を働かなくした上でシミュレーションを行い、生理学のデータと合致するような結果をデモンストレーションしていただいた。このことからも、彼のモデルの妥当性の高さが伺える。

 彼らの研究室には生理学の研究者とコンピュータサイエンス出身の研究者、哲学出身の研究者など異なる分野出身の研究者が混在しており、ディスカッションや研究を進める上で非常に有意義であったという言葉が印象的であった。最後に、Pauli氏はかつて玉川大学に滞在していたときに経験した、坂上研究室でのサルを対象とした単一電極の細胞外記録法による単一細胞活動記録実験や、塚田研究室で経験した細胞外記録法による多細胞活動記録の実験が、モデルを作成する上で非常に効果的であったという言葉で締め括られた。やはり、実験と理論やモデルの両輪が研究推進には必要であると実感した次第である。

日時 2008(平成20)年10月14日(火)11:30~13:00
場所 玉川大学研究管理棟5階507室
報告者 則武 厚(玉川大学脳科学研究所・嘱託教員)