第3回目となるグローバルCOE特別講義、今回は慶應義塾大学の今井むつみ教授をお迎えして、言語獲得における擬態語の役割と擬態語の脳内処理についてお話をいただいた。
擬態語は、音そのものの模倣した擬音語(たとえば犬の鳴き声である「ワンワン」など)とは区別され、ものの様子や形、触感などを「シンボリック」に表現した語を指す。言語学の大家、ソシュールが音と意味の関係について「恣意的である」と唱えて以降、言語学の世界では語の音とその語が示す対象とは無関係であると考えられてきた。しかし、擬態語は身体の感覚と密接につながっている音(言葉)である。たとえば、「ホクホクした焼き芋」という言葉を聞くと、音と意味は無関係どころか、まさに音がその状態をそのままなぞっているように感じられる。擬態語はシンボリックに感覚を表現するという意味で名詞や動詞とは明らかに異なる。
音と意味の関係が恣意的と言われる一方で、人間は音とイメージを結びつける感覚を持つことが知られている。たとえば、ケーラーによれば、成人の約8割が曲線的な図形には「マルマ」、直線的で角ばった図形には「タカテ」という音がふさわしいと判断する。このような音の象徴性(音象徴)が擬態語に豊富に含まれている。今井先生は擬態語が言語獲得に果たす役割について、多角的にアプローチする。
●母親の子どもに対する語りかけを分析した研究では、動作を表す言葉として、動詞よりもオノマトペ(擬態語・擬音
語)を多用する。
●3歳児は新奇擬態語にマッチする新奇動作を容易に対応付けられる(事前に取った成人のレーティングにマッチし
た判断)。新奇動詞の即時マッピングの場合、正答率はチャンスレベル程度にとどまる。
●fMRIの研究では、聴覚障害者・健常者が動詞・副詞・擬態語を呈示された際の脳活動を比較。擬態語呈示の際、
STSとMotion perceptionを司るMT野が大きく賦活
感覚世界と抽象的な言語の橋渡し的役割を果たしているのが擬態語、という仮説を検証するために、発達的なアプローチのみならず脳科学的なアプローチも取り入れ、精力的に研究を進めている点が特に印象に残る講義であった。
日時 | 2009年4月27日(月)午後4時~5時 |
---|---|
場所 | 玉川大学 研究・管理棟 507教室 |
報告者 | 宮﨑美智子(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員) |