【レポート】
「The Calm Before the Storm: Neural Activity Predicts Vulnerability to Social Stress」
Herb Covington 氏 (デューク大学心理学部 助教)

玉川大学グローバルCOEプログラム 特別講演会
「The Calm Before the Storm: Neural Activity Predicts Vulnerability to Social Stress」

Herb Covington氏
(デューク大学心理学部 助教)



本講演ではデューク大学のHerb Covington氏にお越しいただき、Covington氏が行っている最新の分子生物学的手法を取り入れた脳研究についてレクチャーしていただきました。

近交系マウス(遺伝的背景が均一なマウス)においても社会的ストレスに敏感で鬱様行動を示すマウスと、ストレスから早く立ち直れるマウスの二群に分かれることから、ストレス応答は生後における個人の違いによって大きく差が出ると考えられます。この違いは脳のどのような活動によって生じているのかを調べるため、Covington氏はマウスにストレスを与える前後において扁桃体と大脳皮質の活動を測定し、二群の違いを調べていました。

その結果、社会的ストレスを与えると扁桃体と大脳皮質の脳波のコヒーレンスが上昇し、ストレスに敏感なマウスのほうがその後も活動が高いということがわかりました。さらに、この研究の重要な点はDREADDs (designer receptors exclusively activated by designer drugs) という手法を用いて回路選択的に神経細胞の活動を上昇させ、ストレスからの立ち直りに関わる神経回路を明らかにしようとしているところです。

具体的にはまず経シナプストレーサーであるWGAと、部位特異的な組み換え酵素であるCreを発現させるウイルスを大脳皮質の細胞に感染させます。さらに、hM3dという特殊なGPCRをCre存在下でのみ発現させるウイルスを扁桃体の細胞に感染させます。そうすることで、扁桃体では大脳皮質から投射を受けている細胞だけがhM3dを発現することになります。最後に大脳皮質にhM3dのアゴニストを投与することで、大脳皮質から投射を受けた扁桃体の細胞で、かつまた大脳皮質へ投射した細胞の終末を活性化させることができます。この方法で人為的に大脳皮質と扁桃体の回路を活性化させ、ストレスを与えたときと同様に脳波のコヒーレンスの上昇を確認していました。

その後もこの回路に重要と考えられる分子、例えばある分子の発現を強力に抑えるヒストン関連タンパクなどを説明していただきました。今後は分子間相互作用にも着目して研究を展開していくようですが、今回教えて頂いたDREADDsやオプトジェネティクスなどの手法は脳の回路を解明するうえで非常に有用であると思われます。

日時 2012年3月21日(水)15時〜17時
場所 玉川大学8号館第2会議室
報告者 齊木愛希子(脳情報研究科・博士後期課程)