【レポート】 第1回 グローバルCOE特別講義

『評判メカニズムとしての内集団ひいき行動』
山岸 俊男 氏(北海道大学大学院・教授)

 北海道大学文学研究科の教授であり、社会心理学の第一人者である山岸俊男先生から「評判メカニズムとしての内集団ひいき行動」という演題で講演をしていただいた。この講演では、人間は自分が属する内集団の評判を意識して利他的な行動をとるということを多くの実験データにもとづいて解説され、非常に興味深いものであった。

 特に興味深かったのが、人間の利他行動における目の効果であった。例えば寄付するかどうかをパソコン上で判断させる課題において、ディスプレイの壁紙に目をつけているだけで寄付をする割合が増加するという実験データを示して頂いた。この結果は、如何に我々が他者の目というものを意識して自らの振る舞いを決めていることを端的に表している非常に興味深いデータであるといえる。さらに興味深いことに、∵という、実際の人間の顔からは程遠い、しかし見ようによっては顔のように見える記号を被験者に提示した場合でも、寄付行動をとる傾向が強くなるという傾向があることを示唆するデータも示して頂いた(ただしこの結果は、再現性は必ずしも高くはないようである)。これらのデータは、我々の他者の目を意識するという傾向が、非常に潜在的、無意識的なものであるということを示すものである。

 さらにこれらの知見の延長にある内集団ひいきに関する研究も非常に示唆的であった。この実験では、クレーとカンディンスキーという絵画の好みで複数人集まった被験者からその場で二つのグループを作り、それぞれのグループ内、グループ間で金銭のやり取りをするゲームをやらせた。そしてそれぞれのやり取りでどれだけ利他的な行動を取っているのか調べたところ、絵画の好みという全く金銭のやり取りとは関係ない要素でグループ分けをしたにも関わらず、被験者は自分の属するグループ(内集団)内の人に対して利他的な行動をとることが分かった。しかし自分が利他的な行動をしたのかどうか分からない条件においては、内集団の人であっても利他的な行動をとらないというデータもまた示されていた。

 これらの実験データを総合して解釈すると、利他的な行動というのは非常に他者の視線、すなわち評価というものを勘定に入れて行っているということである。すなわち他者の目があり、さらに自分の評判が伝わりやすいと考えられる内集団においてこのような傾向がみられるのだということが分かった。これは利他行動という人間固有に近い行動の一端を解き明かす非常に重要な知見であると思われる。

 山岸先生のお話は、玉川大学のグローバルCOEが神経科学の観点から主に研究をしている社会性というものを、人間間のやりとりにより注目した社会心理学の観点から研究しているものであり、社会性の研究にかかわる玉川大の研究者に普段とは異なる多くの視点を提供する非常に価値のあるものであった。また無意識的な目の効果など、神経科学と社会心理学がクロスオーバーする領域が多いことも今回の講演から分かり、今後の共同研究の議論のきっかけとなる講演会であった。

 

日時 2009年2月6日(金)16時00分~17時00分
場所 玉川大学研究・管理棟 5階507室
報告者 高橋 英之(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)