【レポート】 若手の会談話会/2010年8月

『異なる感覚モダリティ間・
感覚属性間の同期知覚における複数の時間限界』
藤崎 和香氏(産業技術総合研究所)

 本講演では、産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門研究員の藤崎和香氏が、心理物理実験を利用してこれまで進められてきた、視覚・聴覚・触角の異なる感覚モダリティ間・感覚属性間の同期知覚における複数の時間限界に関した研究をレビューするご講演をいただいた。さらに、心理物理実験をデモを交えながらひとつひとつ現象を紹介していただくとともに、その背後にあるメカニズムや提案する知覚処理のモデルについて議論した。以下に、講演内容を述べる。

 時間的な同期性は、異なる感覚モダリティ(視覚・聴覚・触覚など)間、感覚属性(視覚ならば、輝度・色彩・形など)間の情報を統合して、一体感のある知覚世界を構築するための重要な手がかりである。しかしながら人間の脳が、どのように異なる感覚モダリティ間・属性間の時間比較を表現しているのかという根本的な謎については、基本的なメカニズムでさえも殆ど解明されていない。

 講演者らは近年、異なる感覚モダリティ間・属性間の同時性知覚には、感覚モダリティや属性の組み合わせに依存する時間限界と、組み合わせに依存しない共通の時間限界とが存在することを発見した(Fujisaki & Nishida, 2009,2010)。同期・非同期弁別課題の時間限界は感覚モダリティや属性の組み合わせによって異なり、例えば視聴覚、視触覚の組み合わせでは約4 Hzとなるのに対して、聴触覚の組み合わせでは約10 Hzとなり(Fujisaki & Nishida, 2009)、視覚を含む処理過程は含まないものと比較して、時間限界がより低くなることを発見した。一方で、対応付け(バインディング)課題の時間限界は、感覚モダリティや属性の組み合わせに依存せず、どの組み合わせであっても約2-3 Hzと共通になることを発見した(Fujisaki& Nishida, 2010)。

 また、産総研は研究成果の社会還元を強く掲げていることもあり、講演者らの研究はインターフェースや通信技術への発展を視野に含めて進められていた。例えば、情報の圧縮・伝送技術には、画像や音声を受信して視聴する人間の脳の働きを加味した設計がなされるべきだが、現在の技術ではほとんど考慮されていない。もし、講演者らが導き出した発見が技術応用されれば、より自然で高精度な情報の伝送や再現が実現できるだろう。

 以上本講演は、知覚の基礎的原理・メカニズムを解明する実直な研究に加え、先端的科学技術の社会的貢献も示唆する内容であった。藤崎氏の、今後の研究のさらなる発展と成功を願う。

日時 2010年8月11日(水)17時30分~19時45分
場所 玉川大学研究センター棟1Fセミナー室
報告者 加藤 康広(玉川大学脳科学研究所・嘱託研究員)