【レポート】 若手の会談話会/2010年4月

『チンパンジーはどのように絵画を見るか?』
狩野 文浩氏 (京都大学 霊長類研究所 大学院生)

 狩野氏はチンパンジーの視線計測というとても新しい研究にチャレンジされている新進気鋭の研究者である。今回、絵画というヒト固有の芸術作品を鑑賞しているチンパンジーの視線の動きを解析するという、とてもチャレンジングな研究についてのお話を聞かせていただいた。

 その結果、チンパンジーもヒトも、絵画の様式、操作の条件によらず、絵画や写真の中の顔部位を特に長く注視すること、顔部位に対するこのパターンは、シーンの情報が大幅に削減された場合にも(線画やシルエット、胴体のみ)保持されること、両種ともに、絵画的誇張表現(大きな顔・目、三つ目)に対してより長い注視時間を示すことなどが示された。これは人物の顔の見方という点において、チンパンジーは多くの部分でヒトとの共通性を示す、大変興味深い結果であった。ただしあまりに抽象的な絵画に対しては、注視時間にヒトとチンパンジーの間で差が認められた。

 狩野氏の課題は、絵画に対する好みなどの鑑賞的な側面よりも、視覚刺激の題材としてヒトとチンパンジーの顔に対する注視の特徴を調べるというアプローチであった。しかしこのような研究を続けていくことで、ヒト特有であると考えられている芸術の起源についても何か新しい知見が生まれるのではないかという期待を持たせる発表であった。

 また自分が研究に用いている視線計測装置(トビーアイトラッカー)を用いてチンパンジーの視線を計測する苦労話なども聞かせていただき、論文から読み取ることができないチンパンジーを扱った研究の奥深さ、面白さ、難しさ、などを狩野氏の講演から知ることができたのも有意義であった。

日時 2010年4月21日(水)15時30分~17時00分
場所 玉川大学8号館第2会議室
報告者 高橋 英之(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)