【レポート】
Metacognition in monkeys.  Marc Sommer氏
Reward coding by the primate dorsal raphe nucleus. 中村 加枝 氏

グローバルCOE特別講演会

講演者:Marc Sommer(Center for Cognitive Neuroscience, Duke University)
タイトル:Metacognition in monkeys.

講演者:中村 加枝 氏 (関西医科大学医学部 教授)
タイトル:Reward coding by the primate dorsal raphe nucleus.


我々ヒトを含めた動物にとって運動することは日常的であるが、運動すると自分と外界の関係が変化し、それによって感覚情報も変化する。そのため脳は、実際に自分の運動が開始される前に、運動系から感覚系にこれからどのような運動が起こるのか知らせる必要がある。Sommer氏はこの内的な運動のモニタリングの神経基盤として、上丘(SC)→視床背内側核(MD)→前頭眼野(FEF)の神経回路に注目した。ここで重要なことは、この「SC-MD-FEF神経回路に含まれるニューロン」がいつどのようなタイミングで活動するかを調べることであるが、これを調べる方法として順行性および逆行性刺激法が用いられた。この方法では、サルのSCおよびFEFに刺激電極を埋め込み、MDに投射するSCニューロン、SCから入力を受けてなおかつFEFに投射するMDニューロン、SCからMDを介して入力を受けるFEFニューロンを同定することができる。これらのニューロンの活動を遅延型の急速眼球運動課題(Delayed Saccade Task)中に調べることで、SC-MD-FEF神経回路が随伴発射経路(Corollary discharge pathway)であることを結論づけた。

さらに、Sommer氏は意思決定における内的モニタリングの神経回路機構に関する研究を行っており、演題にもあるように、サルの「メタ認知」、つまり自分が知っていることを知っている、ということの神経基盤に迫るもので、非常に興味深い議論が行われていた。Sommer氏は主として前頭前野に注目していた。

Sommer氏の逆行性刺激および順行性刺激のテクニックを使った回路として行動の神経基盤の解明に迫るアプローチは、古典的でありながらシンプルで説得力があり非常に魅力的である。一つ一つのニューロンの活動の重要性はもとより、それが神経回路としてどのように機能しているかを明らかにしていくことは今後ますます重要性を増していくであろう。今後の神経科学研究の展開を考えさせられる非常に印象深い講演であった。



中村加枝氏には報酬に基づく動機付け行動におけるセロトニンの役割についてご講演頂いた。まず、講演の最初に、セロトニンは中枢神経系でわずかに2%存在するのみであるということが紹介された(その他98%は小腸と血小板に存在するということである)。脳幹の中央部に位置する縫線核(Raphe)は、このわずか2%のセロトニンを神経伝達物質として使っているニューロン(セロトニンニューロン)を高密度に含む神経核である。これまでの研究から、縫線核は覚醒(arousal)、注意(attention)、歩行等のリズム運動(rhythmic movement)など多くの機能に関与することが示されている。また、背側縫線核のニューロンは大脳皮質や線条体、黒質網様部、ドーパミンニューロンを多く持つ黒質緻密部に投射しており、報酬を得るため、もしくは罰を避けるためといった動機付け行動に対して影響を持つことが推測されていたが、詳細なメカニズムはわかっていなかった。中村氏の研究は、セロトニン系がどのように報酬情報処理に関与しているのか、そのメカニズムに迫るものである。また行動課題として、中村氏がNIHの彦坂興秀教授とともに近年精力的に行ってきたドーパミンの研究で用いられた行動課題(記憶誘導型のサッカード課題、視覚誘導型のサッカード課題)を使用しているので、セロトニン系とドーパミン系という2つの神経修飾物質が報酬に基づく行動選択のプロセスの中でどのように相互作用しているかを調べることができると考えられる。これらの課題を遂行中のサルの背側縫線核ニューロンの単一細胞記録から、背側縫線核ニューロンの活動は課題開始の合図から持続的な応答と、報酬が得られた後の応答が観察され、これらの応答が将来の報酬に対する予測(期待)を表現していることが示唆された。

日時 2010年7月31日(土)10時00分~12時00分
場所 玉川大学研究・管理棟5階507室
報告者 山中 航(玉川大学大学院・脳情報研究科、大学院生)