【レポート】
第10回 「脳と心のメカニズム」冬のワークショップ

第10回 「脳と心のメカニズム」冬のワークショップ

プログラム


 脳と心のメカニズム 冬のワークショップは、毎年1月に北海道のルスツリゾートで開かれているワークショップである。このワークショップは、既存の学会などと違い、医学、心理学、理学、工学など分野を問わない参加者が数多く集まり、寛いだ雰囲気の中で寝食を共にしながら三日間研究について語り明かすという特徴的なものである。

 2010年のワークショップのテーマは意識と無意識であり、招待講演者としてカリフォルニア工科大学の下條信輔先生やハーバード大学のPatrick Haggard先生などその分野における指導者的な研究者の先生方をお招きしてワークショップが開かれた。ワークショップのテーマが意識と無意識という心の本質に迫る興味深いテーマなこと、豪華な招待講演者、などが相まって過去最高の参加者数やポスター発表数を記録するワークショップとなった。下條先生のお話は、人間の無意識的な情報処理が意思決定に及ぼす影響について様々な面白い実験によって示そうと試みた独創的なものであった。またPatrick Haggard先生の講演は、身体運動におけるタイミングの制御などが脳内の順逆モデルによってどのようにコントロールされているのかを厳密に統制された実験によって明らかにしようという野心的なものであった。他にも放医研の高橋英彦先生によるジェラシーにかかわる社会認知神経科学的研究など、大変魅力的で、勉強になる講演が並んでいた。

 しかし脳と心のメカニズムの特徴の一つとして、これらの大御所の先生方が講演をされるだけではなく、それらの大御所の先生と若手の先生方の距離が非常に近いことがあげられよう。例えばポスターセッションではお酒やスナックなどが振舞われ、リラックスした雰囲気で時間を気にせずに深い研究の議論が行われる。そしてそのまま、若手を中心に宿泊しているログハウスで議論の続きという名の飲み会が行われ、夜通し研究の内容や研究者としての生き方についての議論が続く。

 そしてこのような若手の議論に大御所の先生も混じってくださることにより、上下を超えた絆というものが生まれる。またワークショップ会場の目の前がスキー場であり、研究の議論の合間に、スキー場で共にスキーをしながら議論を重ねる大御所と若手の姿も散見された。このようにリラックスしたムードでワークショップが行われることは、分野全体の研究者の絆を高めるという意味で非常に意義深いものであると思われる。

 このように脳と心のメカニズムのワークショップは、最先端の研究に触れることが可能であるという点に加え、神経科学業界の縦横のつながりを深めるというもう一つの役割も果たしている大変意義深いワークショップであると言える。今後もこのワークショップに参加し、自らの研究の肥やしにしていきたいと考えている。

日時 2010年1月12日(火)~1月14日(木)
場所 ルスツリゾート(北海道)
報告者 高橋 英之(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)