1994年に放送された「NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体II 脳と心」をみて、当時物理学科に所属する大学生だった私は強い衝撃を受けました。専門分野外であるにもかかわらず「これからは脳の時代だ」という強い印象を受け、私が神経科学を志すきっかけのひとつとなりました。その後、私が神経科学者を志す大学院生になって、番組をビデオで見直してみても、その番組は「わかりやすさ・おもしろさ」と「科学的根拠」を上手く両立させていることに改めて気づきました。一方で「最近の脳をテーマに扱ったNHKスペシャルは、番組内容が臨床に偏っているのではないか?」などとも、感じてもいました。このようないろいろな思いから、当日の講演を非常に楽しみにしていました。
室山氏の講演は、期待に違わぬ非常に興味深いものでした。まず、ご自身で体験された日食レポートからTVの影響力の大きさを再確認したことをお話いただきました。その後、「番組を作る上で求められていることや必要なこと」として、「視聴者が求めるテーマの番組を作る必要性」「正確さとわかりやすさの両立は難しいこと」など、講演内容は番組作りに関することを具体的に説明いただきました。研究者向けの講演というより若手テレビマン向けの番組作り講座に近いような印象を受け、非常におもしろかったです。特に、日米のドキュメンタリースタッフが集まって、同じ内容の素材を編集の仕方をかえることによってどれくらい印象が変わるかを実際に検証してみたことを、実際に作成されたビデオで説明いただいたのが非常にわかりやすかったです。
最後に、研究結果を伝える側からの要望として「研究者はもう少し、マスコミや一般市民にわかりやすい形で研究結果をアピールする習慣をつけた方がよいのではないか?」とのご提言をいただき、非常に考えさせられました。我々研究者自身はそれほど自覚がないのですが、外部の方からみると研究者の社会はどうしても専門用語が飛び交う排他的な閉鎖型社会に思われてしまうようです。市民の方々に科学研究の重要性について理解していただくためにも、科学研究が社会に対してもっとオープンになっていく必要があり、そのためにもテレビマンと研究者がいい意味で緊張感を持ち合いながら協力して科学のおもしろさを広めていく必要があるのではないかと感じました。
日時 | 2009年11月6日(金)16時00分~17時00分 |
---|---|
場所 | 玉川大学研究管理棟5階507室 |
報告者 | 福島 康弘(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員) |