カナダの著名な発達心理学・神経科学者であるDaphne M. Maurer先生をお迎えし、「共感覚の神経メカニズム」をテーマにご講演をいただいた。共感覚者と乳幼児の認知・言語発達との関係についてお話くださった。
共感覚(synaesthesia)とは、たとえばトランペットの音色が赤色に感じられるなど、複数感覚にまたがって物事を経験することをいう。共感覚を持つ成人は4~5%程度ともいわれる。Maurer氏は、共感覚は発達メカニズムのひとつと考えている。発達の初期過程においては誰もが共感覚をもっており、現実世界の関連性を強く感じられるようにはたらく。共感覚は成長に伴って消失、あるいは抑制されていくものであり、共感覚者は成人するまで消失・抑制がかからなかったケースと考えている。
共感覚者にまつわる一連の研究成果の中で、特に興味深いのは視覚野(V4)における知覚処理である。普通の成人では、聴覚刺激を呈示されると聴覚野のみが賦活する。一方、共感覚者は音声を聞くと、聴覚野だけではなく視覚野も同時に賦活する。文字通り音を見るのである。これと同じことが発達途上の子どもでも起こるという。事象関連電位を指標とした研究によると、聴覚刺激を与えた際に、成人では聴覚野においてのみ反応の変化が見られたが、子どもでは聴覚野のみならず視覚野においても反応の変化が観察された。子どもの場合、脳の発達過程においては、いったん必要以上の配線が敷かれる。そのため聴覚刺激に対して聴覚野・視覚野双方が賦活するのだという。このような傾向は触角刺激を与えられた場合においても観察されたという。
聴衆の中には学部生がいたこともあり、たいへんわかりやすい語り口でお話しくださったのが印象的だった。後に分かったことだが、聴衆の中に共感覚者が二人いらしたのだという。不思議な世界に生きる彼らの生の体験もぜひ聞いてみたかった。
日時 | 2009(平成21)年6月22日(月)16:30~17:45 |
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場所 | 玉川大学 研究・管理棟 507教室 |
報告者 | 宮﨑 美智子(玉川大学脳科学研究所・ GCOE研究員) |