本講義では、韓国のKorea UniversityのHackjin Kim 先生にMRI・fMRIの基礎についてご講義頂いた。Kim先生は、カリフォルニア工科大学でポスドク時代を過ごされ、fMRI研究では多くの研究成果をだされている(Kim et al., PLoS Biol, 2006 ;Kim et al., PNAS, 2007)。機能的磁気共鳴画像法(functional MRI)に代表される脳機能画像法の発達により、人体を傷つけることなく脳活動を可視化出来るようになった。本講義では、脳機能画像解析の基礎編と位置づけ、最初にMRI装置と撮像の原理、次に脳活動にともなう血流変化を計測するfMRIについて、さらにその原理と計測データの扱い方について学び、これらの計測方法の長所と限界についてご教示いただいた。
MRI装置で得られたデータの解析には画像処理や統計学的手法の応用が不可欠である。実際には、SPMを代表とする解析パッケージ が容易に手に入ることもあり、その中身を理解しなくとも簡単にある程度の結果が得られる。ところが、安直な実験課題作成や不適切な解析、誤った解釈などは、 真実からかけ離れた結論を導き出すこととなるので、正確な理解が必要である。具体的には、主に画像データの前処理および統計解析(個人解析・集団解析)の理論と実際について、機能的MRIデータを教材として講義を受けた。近年、データ処理手法はますます高度化・ 複雑化し、誰もが独学で理解するには難しい面もあり、これらを通して脳機能画像法のもつ可能性と落とし穴についてバランスのとれた非常に丁寧な説明を受ける事ができた。Kim先生は、最後にこの技術を用いてどのような研究が行われているか最新の動向として神経倫理学、神経経済学など異分野と脳科学の研究者が一緒に研究をすすめて得られている知見についても紹介された。
本講義におけるMRI装置や原理については、他のサマースクールなどでも何度かきいた事のある話ではあったが、通常このような原理の説明には数式がつきもので、難しい、わかりにくいという印象が先にでてしまいがちだが、なるべくこのような数式を使うことなく理解できるよう工夫された講義内容であった。実際に課題作成の方法については、具体的で自分にとって身近なテーマを題材として講義が受けられたので、非常に理解しやすかった。これらの講義内容をとおして、心理的な現象を科学的に説明するための方法の一つである、非侵襲脳機能計測技術に対する考え方、データの解釈の仕方を磨くことが肝要であると感じた。
日時 | 2009(平成21)年2月5日(木) 13:00~15:00 |
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場所 | 玉川大学研究・管理棟 5階508室 |
報告者 | 山本 愛実(玉川大学脳科学研究所・嘱託研究員) |