【レポート】 若手の会談話会/2010年1月

『刺激クラスの形成における対称性のfMRI研究』
小川 昭利 氏(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

本講演では、理化学研究所の小川昭利氏が、人がカテゴリー形成を行う際の脳活動に関する研究について発表を行われた。小川氏は、対称性の推論という推論方式に着目し、その推論のカテゴリー形成における有用性について議論した後に、その推論を行う際のfunctional MRIによるイメージング実験について紹介された。対称性の推論とは、if A then Bからif B then Aを導くという、厳密には非論理的であり、人以外のほとんどの動物では行うことができない推論方式である。さらに、排他律を用いたカテゴリー形成のfMRI研究についても発表された。

小川氏によれば、人は単純な対象物の同時出現の確率や随伴性のみを使ってカテゴリー形成を行っているのではなく、対称性や推移性(if A then B and if B then Cからif A then C)の推論を用いることによって、カテゴリー形成を効率よく行っている可能性があるという。fMRI実験の結果、対称性推論を行っているときの脳活動は、小川氏の仮説を支持するものであった。

本講演の主要なテーマとなった対称性推論に関しては、私もかねてより関心を持っており、その意味でもこの講演を聞く事ができたのは大変幸運なことだった。従来の対称性推論に関する議論は、議論を行うものによって問題意識も現象の捕らえ方も異なり、様々に錯綜している印象を受けていたが、カテゴリー形成に焦点を絞った小川氏の議論は比較的明確なものであったように感じた。一方で、講演中や講演後に討論されたように、なぜ人間だけが特殊なカテゴリー形成の方策をとり、それはどのようなメリットを持つのか、カテゴリーとシンボルや言語との関係はどのようなものなのか、ということに関しては、さらなる研究が待たれると感じた。

本講演においては、講演者と聴衆との討論に多くの時間が割かれた。特に、大森隆司玉川大学教授や酒井裕玉川大学准教授らにより、多くの質疑や議論が行われた。このような、一流の研究者の発言は、研究のどのような点に注目すべきか、また、あるアイデアや問題意識を研究に反映するためにはどのようにすべきかということの生きた手本というべきであり、若手研究者にとって非常に有益なものであったと思う。また、私を含めた若手(ポスドク・学生)からも講演中や講演後に盛んな質問が行われた。学会などで限られた時間のなかでの質疑応答ではなかなか行うことのできない研究者の交流ができたのではないかと思う。最後に、講演時間を超過しながらいやな顔ひとつせず、丁寧に質問に答えていただいた小川昭利先生にお礼を申し上げたいと思う。

日時 2010年1月22日(金)17時00分~18時30分
場所 玉川大学研究・管理棟 5階507室
報告者 内田 淳(玉川大学大学院 工学研究科・大学院生(博士課程))