【レポート】
Distinct laminar zones of coherent local field potentials in monkey V1
Alexander Maier 氏

グローバルCOE特別講演会
Distinct laminar zones of coherent local field potentials in monkey V1

Alexander Maier 氏
(National Institutes of Health, U.S.A. )


 本講演ではアメリカ国立衛生研究所(NIH)のAlex Maier研究員をお招きし、課題遂行中の覚醒下サルにおける多点電極を使った大脳皮質一次視覚野(V1)での局所電場電位(Local Field Potential, LFP)の記録結果について紹介して頂いた。Alex氏はMax Planck研究所・Logothesis博士のもとで博士号を取得し、その後現在のNIH・Leopold博士の元に異動、視覚的意識の神経基盤について覚醒下サルでの電気生理学的検討を精力的に進めてきた新進気鋭の若手研究者の一人である。

 課題遂行中の覚醒下サルから脳活動を計測する手法としては従来、単一神経細胞記録が主に使われてきているが、近年多点電極を使ったLFPの計測が注目を浴びている。LFPは電極挿入部位周辺の局所的な神経細胞群におけるシナプス電流の総和に相当するものを計測していると考えられ、単一神経細胞記録と頭蓋上脳波を始めとするより広範囲の脳活動を計測した電気信号との間に位置するものと扱われてきた。単一神経細胞記録では対象とする脳部位からの出力に相当する情報が計測されるのに対し、LFPはシナプス電流、つまり入力に相当する部位への入力に相当する情報を計測することができる。また、単一神経細胞記録では比較的大きな細胞体を持つ細胞からの計測が主となり、実験者の意図にはかかわらずサンプリングにバイアスがかかってしまうが、LFPではそのような問題が解消され、より客観的な計測が可能である。しかしながらその解析手法・解釈などの煩雑さから覚醒下サルでの計測は倦厭されてきた。近年になってLFPが多用されるに至ったその背景の1つに、皮質の層構造に基づいたCurrent Source Density解析(CSD解析)の有用性が挙げられる。深さ方向に複数の計測点が付いた電極を皮質に垂直に挿入しLFPを計測・CSD解析をすることで、対象皮質のどの層に、どのタイミングで入力があったのか検討することが可能となる。このことは、複数の脳部位が相互に入出力を持ち情報処理を行うことで初めて実現可能となるであろう高次な脳機能の神経基盤を明らかにしていくうえで、極めて重要な意義を持つ。

 講演ではV1から計測されたLFPの高周波数成分(50-100 Hz)の信号強度が浅層と深層とで異なること、CSD解析によってその原因がIV層・V層の近辺に推定されること、さらには多重安定性を持った視覚刺激を提示した際のサルのレポートとこれら高周波数成分との関係や、単一神経細胞記録では計測が困難な皮質浅層の活動などが紹介された。V1と他領域との投射関係に関する解剖学的な知見を交えた考察がなされ、極めて興味深い講演となった。覚醒下サルでの脳活動計測は、霊長類の高次脳機能神経基盤を理解するうえで不可欠なものであるが、単一神経細胞記録のみでは他領域間のやり取りについては殆ど見当がつかず、限界が見えていたことも事実である。本講演で紹介されたLFP・CSD解析といった新たな手法が今後の脳研究において果たすであろうその重要性を再認識させられ、そういった意味でも大変印象に残る講演であった。

日時 2009(平成21)年8月6日(木)17:00~19:00
場所 玉川大学 研究・管理棟 507教室
報告者 高浦 加奈(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)