【レポート】
The 11th Tamagawa Dynamic Brain Forum (DBF '09)

The 11th Tamagawa Dynamic Brain Forum (DBF '09)

DBF'09 Oral Presentation Program


 玉川大学脳科学研究所と玉川グローバルCOEプログラム「社会に生きる心の創成 ―知情意の科学の再構築―」が共催する第11回玉川ダイナミックブレインフォーラム(DBF)は、2009年3月2日から4日の3日間に渡って静岡県熱海にて開催された.会議は小原学長のopening speechに始まり、世界各国から参加した40名の研究者によるoral presentationが文字通り朝から晩まで繰り広げられる、非常に密度の濃いワークショップとなった。

 DBFは1996年に第1回が開催されて以来、ほぼ毎年1回のペースで玉川大学学術研究所脳科学研究施設(後の玉川大学脳科学研究所)が主催してきた神経科学の国際フォーラムである。脳の高次機能のメカニズムを理解するために、脳内に存在する様々なダイナミクス(神経活動の振動、リズム、同期現象等)の特性を明らかにしていくことの必要性を開催初期からの基本テーマとし、計算理論、情報理論を駆使した数理的なアプローチと、心理学的、生理学的な実験的アプローチをいかにして有機的に融合させて行くかという点に主眼が置かれた議論が展開されてきた。11回目となる今回は「創造性(creativity)」がトピックとして選ばれた(テーマ: "Creativity、 Dynamics、 and Mutual Interaction")。新しい概念・情報を創出する機能は確かに既存の工学的な情報処理アーキテクチャには見られない脳独特の特徴であり、そのメカニズムは魅力的な研究対象といえる。しかし、そもそも「創造性」という概念の定義自体が難問であり、実験的にその神経基盤を解明しようという流れには、近年さかんになりつつある脳の高次機能研究とは言え、まだまだ本格的には至ってはいない。そのような中で敢えてこうしたチャレンジングなキーワードをテーマとして取り扱うところはDBFならではといえる。今回の講演ではそれぞれの研究者が独自の切り口でこの"creativity"という題材を捉え、アプローチしていこうとする姿勢が印象的であったが、比較的多くの講演に共通していた取り組みは、いかにして抽象化された事象を脳が扱うメカニズムを捕らえるか、と言う点を実験的、理論的な枠組みに落とし込んで行くものであった。

 また、神経科学が扱う事象(研究対象)が益々複雑になっている現状を踏まえると、理論的研究者と実験的研究者が相互に充分なコミュニケーションを取るためには、一定のフォーマットに従った実験データや計算モデルの公開による情報交換の場が必須となってくる。そのようなデータシェアの動きはPhysiome projectやNeuroinfomatics、 Dynamic Brain Platformとして徐々に広まりつつある。今回は本フォーラムにおいても、野村先生(大阪大)やHunter先生(University of Auckland)、臼井先生(理研)、我妻先生(理研)らによってその詳細が紹介された。

 そして、Banquet形式の夕食会場には若手研究者(ポスドク、博士課程学生を含む)らによる16件のポスターが並び、和やかな雰囲気ながら方々で熱い議論が展開されていた。なかには白熱した議論が止まらず、 22時に夕食会場が閉まるとそのままホテル内のラウンジ等に場所を移して第2ラウンドへと突入したグループもあったようである。

 行動下齧歯類の電気生理実験を普段行っている報告者としては、礒村先生(理研)の頭部を固定した覚醒状態のラットを被験体として行う傍細胞記録法、Redish先生(University of Minnesota)のT字迷路の分岐点でラットが頭部を向けた方向の進路上に本来のplace fieldを持つplace cellが先行して活動する現象、Villa先生(Université Joseph Fourier)の独自に開発した多ニューロン同時記録データ内に存在する活動の時間パターン検出のアルゴリズムと聴覚野の神経活動データへの適用の講演等は特に興味深く、またいずれの先生方もBanquetの時間には私のポスターへと足を運んで下さり、とても熱心に説明を聞いていただけたのと同時に、次のステップへとつながる様々なデータ解析のアイデア等も提案していただき、大変有意義なポスターセッションとなったのは非常にありがたかった。

 比較的初期の頃のDBFを(伝聞的にではあるが)知る者としては参加者が倍増したこともあって少々忙しない日程になってしまった感は否めないが、それもこの会議の方向性への賛同者が増えてきている流れと考えればむしろ歓迎すべきことなのかもしれない。個人的には理論系の研究者との交流が比較的に浅く終わってしまったことが反省点として残った。これについては今回の講演者でもあった津田先生(北海道大)やそのグループの方々、そしてFreeman先生(UC Berkeley)が展開されているような神経活動の力学系的な解析を自分のデータに適用してみることを今後試行し、その結果の解釈について議論することを次回までの宿題としたい。

日時 2009年3月2日(月)~ 3月4日(水)
場所 Hotel New Akao in Atami, Shizuoka, Japan.
報告者 高橋 宗良(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)