【レポート】
TAMAGAWA InFORUM 2009 ~日本語の獲得と教育~

【講演者】
 皆川 泰代氏(慶應義塾大学大学院 特別研究准教授)
 清水 基久氏(フェリス女学院大学 非常勤講師)


 本フォーラムでは、「日本語の獲得と教育」をテーマに、脳科学と外国語教育の視点から2件の講演が行われた。

 皆川泰代氏には、「音韻の獲得・習得とその脳内基盤」と題し、乳児による母語獲得と第二言語学習者の音韻知覚に関する脳科学研究について、最新の研究成果をお話いただいた。誕生して間もない赤ちゃんには、すべての言語に含まれる音のほとんどを聞き分ける能力が備わっている。この能力は、どのような言語環境で育ってもその言語を身につけられる準備として役に立つが、母語(第一言語)に含まれない音を聞き分ける能力は必要がなくなり、成長と共に低下していく。したがって成人して第二言語を学習した際に、母語話者に比べ弁別能力が低くなる音韻があり、それは脳活動と関連していると考えられる。そこで皆川氏は、日本語を外国語として学習する韓国語話者にとって聞き分けが難しい音である短母音(/o/)と長母音(/o:/)に着目した実験を行った。まず韓国人の日本語学習者の中でも上級者を選び、短・長母音の聞き分けテストを行った。このテストの正答率は、母語話者である日本人とほぼ変わりがなく、反応潜時のみが異なっていた。また、これらの音を聞いている際の脳活動を計測したところ、日本人では左脳の言語野に活動が限定していたが、韓国人の上級日本語学習者では左右の脳で広範囲に活動がみられた。これは、日本人と同程度に正しく音の聞き分けを行うために、韓国人は様々な神経回路を使って処理していることを示している。

 清水基久氏には、国際交流基金の文化事業部長として長年、アメリカやジャカルタ、台湾などで日本語を教えてこられた教授経験を基に、「国際文化交流としての日本語教育―外国における日本語教育のトピックス」をご講演いただいた。

 現代の国際社会はグローバリゼーションの時代と言われ、それぞれの地域に存する固有の民族文化を理解し尊重していくことが求められている。このための有益な手段として、国際文化交流による異文化理解・相互理解が注目されてきている。特に現代日本文化の発信・受容に世界中の若者の関心が高まり、その手段として日本語学習が盛んになった。現在、外国語としての日本語教育は国内外で広く行われているが、教育上の問題点はさらに多様化しており、日本語教育の現場ではまだ検討しなければならない問題が数多く残されている。

日時 2009年11月20日(金)11時00分~13時00分
場所 玉川大学 大学9号館500番教室
報告者 梶川 祥世(玉川大学リベラルアーツ学部・助教)