【レポート】
Tamagawa-Caltech Joint Lecture Course
Reward and Decision-making on Risk and Aversion

日程:2013年3月5日(火)~3月8日(金)
場所:アメリカ合衆国ハワイ州


Timetable



2013年3月5日から8日にかけて、玉川大学・カリフォルニア工科大学ジョイントレクチャーコース、および引き続いて行なわれたReward and Decision-making on Risk and Aversionと題された意思決定の神経メカニズムに関する会議に参加させて頂きました。今回で最終回となるレクチャーコースは玉川大学とカリフォルニア工科大学の中間地点であるアメリカ合衆国のハワイ島にて開催されました。玉川大学のグローバルCOEのご支援のもと研究を行なってきた教員、研究員および博士課程学生らが多数参加し、過ごしやすい気温と会場の外は眩しい太陽と青い海という最高に恵まれた環境のもと、世界中から集まった豪華な講師陣のレクチャーを受け、最新の研究成果について議論が交わされました。

玉川大学グローバルCOE拠点リーダーの坂上雅道先生による、玉川大学グローバルCOEが挙げてきた5年間の成果を纏め上げたイントロから始まり、最初のレクチャーはドーパミンを中心とする現在の学習・意思決定神経科学の礎を築いたWolfram Schultz先生によるものでした。体系だった理解が未だあまり進んでいないようにも見えるシステムレベルの脳機能研究において、ドーパミンニューロンの活動特性と学習理論を結び付けた仕事はその後目覚しく発展し、今や脳による行動制御メカニズムの中心原理のひとつとして考えられるものです。その第一人者によって、ふるくからの実験結果が、最新の結果までを考慮に加えアップデートされた視点によってより精密に解釈され、語られるという貴重なものでした。

引き続き、Suzanne Haber先生、Howard Fields先生、木村實先生、Peter Dayan先生、Barry Richmond先生と、意思決定および学習の神経メカニズムについてそれぞれ神経系の構造、生理、理論と多様な方向のアプローチによる研究についてレクチャーされました。一方、山岸俊男先生と下條信輔先生は社会的行動のメカニズムに迫る研究、川人光男先生は被験者が脳感覚関連領野の信号そのものを制御することによって知覚機能に変化が生じたことを示した研究結果、およびこの全く新しい方法が脳研究および精神疾患の臨床治療にもたらす可能性、とこれからの神経科学が大きく発展していくであろう比較的新しいフィールドのお話しをされました。下條先生の研究は対人関係における好みを対象としておられるので社会的行動に関係する一方で、無意識下の過程を行動および神経活動の両面から調べることで内的な状態が意思決定に影響を及ぼす("active decision")メカニズムに議論を進められ、意思決定の自由性についても考察を与えてくださいました。2日目の午後からはReward and Decision-making on Risk and Aversionに移り、焦点をより意思決定に絞った研究の話が続きました。ここですべての講演者のお名前を挙げることは控えますが、Adam Kepecs先生など比較的若手の研究者から、以前に玉川大学でも特別集中講義をされたBernard Balleine先生など大御所の先生まで、いずれも非常に影響力の大きい論文で名前を目にしている先生方のご講演が続きました。この後半の会議では、まさに最新の、論文としてまだ発表されていない結果も多く報告がなされ、超一流の研究者が交わすディスカッションはスリリングかつ非常にためになるものでした。

またすべての講演終了後にはGeneral discussionの時間が設けられ、意思決定の神経メカニズム研究の今後の課題や新しい方法論の可能性など、比較的概念的なディスカッションが為され、超一流の研究者による「神経科学観」を直接聴けるという得難い経験をしました。以上の、中心となるご講演の他、私を含め玉川大学およびカリフォルニア工科大学の若手研究者などによるポスター発表、全体でのディナーやそれ以外のテーブルなどにおいても、個々の研究者同士が直接インタラクションできる機会が多くあり、様々なレベルでの議論が昼夜問わず為されていたように見受けられました。日常と遠く離れた隔絶された環境によって、意思決定研究にどっぷり浸かること、および参加者の間の一体感のような雰囲気の熟成が促進されたのではないかと感じます。今回のレクチャーコースおよび会議は、間違いなく、今後の意思決定研究およびさらにその枠を超えて周辺の領域まで巻き込んで発展していくきっかけのひとつ、特に若手研究者にとっては展開・発展への種が新たに撒かれた出来事になるのではと信じます。

報告者 横山 修(玉川大学グローバルCOE研究員)


2013年3月5日から8日の4日間、玉川グローバルCOEプログラムの一環として例年おこなわれている、連携大学であるカリフォルニア工科大学とのジョイントレクチャーが開催された。玉川グローバルCOEの総括の年にあたる今年のレクチャーコースは、同グローバルCOEが推進する研究活動のメインテーマのひとつである「意思決定」に焦点をあて、' Tamagawa-Caltech Joint Lecture Course/Reward and Decision-making on Risk and Aversion'と銘打ち、各国において第一線で活躍されている研究者総勢27名による最新の研究成果をまじえた講演と若手研究者を中心としたポスターセッションがおこなわれた。

会の初日は玉川大・坂上雅道教授のオープニングリマークから始まり、各先生方による意志決定・報酬予測に関する生理学研究、経済ゲームでの行動決定に関する社会心理学研究や、視覚的選好の決定に関する非明示的・潜在的な処理過程に関する研究など、幅広いテーマを対象とした講演がおこなわれた。講演は、会場となったハワイ島ワイコロアビーチの海を目前にしたおだやかで開放的な環境もあってか、講演者、参加者ともに活発ながらも終始リラックスした雰囲気のなか議論が進められた。初日の夜はホテル内のバンケットルームにてレセプションパーティーが開催された。中には家族連れの参加者もあり、大人もこどもも楽しみながらのホームパーティーのようなアットホームな時間のなかで研究者同士が交流できる貴重な機会をもつことができた。

翌日以降には、参加者もいっそう打ち解けた様子のなか講演およびポスターセッションが進められた。2日目のポスターセッションは国内外の若手研究者による発表件数が37件にのぼった。個人的には国外の若手研究者の研究成果を多く聞く機会があったが、研究内容がユニークで面白いのはもちろんのこと、自分の研究を伝えようとする熱量が圧倒的だったことがとくに印象深く、良い刺激を受けた。振り返ってみれば4日間はあっという間だったが、今回のレクチャーコースはベテランから若手まで年齢に関係なく近い距離間で交流できる雰囲気が特徴的で、そのなかで研究方法や研究成果にかぎらず、研究に対するモチベーションの高さや研究を楽しむ姿勢など、色々と勉強になることが多かった。玉川グローバルCOEプログラムとしてのレクチャーコースは最終年度となったが、今後の長い研究活動にとっても励みとなる有意義な時間を過ごすことができたと感じる。

報告者 村井千寿子(玉川大学グローバルCOE研究員)