【レポート】
Neurofinance   萱場 豊 氏

グローバルCOE特別講演会
Neurofinance

萱場 豊 氏
(カリフォルニア工科大学 博士課程)


 本講演では、米国カリフォルニア工科大学の萱場豊先生にneurofinanceについてご講演いただいた。萱場先生は東京大学で経済学の修士号を得られたのち、財務省に勤務され、現在はカリフォルニア工科大学のPeter Bossaerts先生の元で研究されている。neurofinanceは行動経済学との融合から生まれた神経経済学の一部で、特に金融に関する不確実性下の意思決定のメカニズムを神経活動から明らかにしようという試みである。その目標は個人の意思決定である株や保険、利子などの適正価格の問題から、市場の変動の予測まで多岐に渡る。本講演では、何故ヒトの行動だけでなく、その神経活動から情報を得る必要があるのかという問いについてお話された後、ベイジアン推定や強化学習モデルを比較したご自身の研究について言及された。

 まず、neurofinanceがこれまでの行動経済学から一歩進んだ知見を与えられる可能性としてリスクプレミアムパズルの問題がある。リスクプレミアムパズルは、実際の安全利子率や株式の投資収益率は、理論値よりも高いリスクを考えないと正当化できないという問題で、リスクほぼ0である国債の利回りに対してリスクがある株式はその分だけ利回りが良いが、それでも現在の市場に出回っている株の収益率は明らかに高すぎるという現象である。言いかえれば、ヒトはリスクに対しての感受性が高く、株はそれほどの見返りがないと商品にならないということである。このリスクに対する感受性は従来のプロスペクト理論でも説明できず、また行動実験ではうまく観察できないことから、リスクに対する神経活動を調べることで、個人に表現されている(と思われる)真のリスクを計測出来ないかという試みがあるという。

 また、ambiguityがある状況での意思決定に関して、これまでにambiguity =「確率が不明なリスク」に対して我々は単純なリスクに対する反応とは異なる行動を示すことが行動実験から明らかにはされている。しかし実験デザインからambiguityを作り出すことはできても、その感度を計算することは出来ないという問題があり、ambiguityの主観的な大小関係を脳活動から捉えようという試みについてお話された。

 行動経済学のコンセプトを神経科学に取り入れたものが神経経済学であるとすれば、神経科学を実際の経済世界に応用しようとする試みが神経金融ともいえる。近年の神経科学の進歩は大きいが、現実世界にどのように応用できるかという点が注目されている中で、 neurofinanceはとても興味深い応用方法であると感じた。ただし、例えばriskとambiguityというコンセプトが本当に脳の中に特異的な形で表現されているのか、それとも脳のメカニズムとしては両者ともuncertaintyの大きさの違いでしかないのかという点さえも未だ明らかにされていない。我々の行動で測れないものを脳活動によって測りうるのか。消費者の嗜好や未来の意思決定を予測できるのか。 neurofinanceはまだまだ生まれたばかりであり、挑戦的模索をしている分野であると感じた。

日時 2010年7月7日(水)15時00分~17時00分
場所 玉川大学研究・管理棟5階507室
報告者 渡邊言也 工学研究科博士課程2年