本講演では、新潟大学医歯学総合研究科・助教の飯島淳彦氏に、映像が中枢神経系に与える影響とその周辺領域における計測技術の発展や臨床への応用など、幅広い知見をご紹介頂いた。
映像技術の発展に伴い、我々が日常的に接する娯楽映像は急激にその多様性・複雑さを増してきている。昨年度には3D映画が製作され大きな話題となったことなど、記憶に新しい。しかしその一方で、人工的に製作され、提示される映像が生体にもたらす影響については過小評価されてきている感が否めない。飯島氏は博士課程在学中からヒト被験者での眼球計測技術の開発に携わってきており、それらの技術を用いて映像のもたらす生体への影響の定量化を行ってきた。眼球位置や瞳孔径は非侵襲的に計測し得る生体信号でありながら交感神経系・副交感神経系の動向などを如実に反映しており、非常に情報量に富んでいる。講演では近年度々話題にあがる「映像酔い」の現象を例に、これらの生体情報を使って各映像の「酔い易さ」がいかにして定量化されうるのか、また「映像酔い」の原因がどこにあると考えられるのか、近年の研究成果について分かり易くご説明頂いた。「映像酔い」のような現象は度々新聞などニュースに上るものの、それに対して十分な対策・再発予防がとられてきていない実情がある。二次元の映像ですらこのような状況にある中で、上述の映画を始めとして昨年度から急激に3D映像技術の普及が始まっている現状に対する飯島氏の懸念は正当なものであり、聴衆も認識を新たにする良い機会となった。
飯島氏は臨床の現場とも提携し、眼球運動や瞳孔の異常に基づく中枢神経系疾患の早期発見に向けても取り組んできており、アルツハイマー病の早期診断技術として点眼薬に対する瞳孔の反応を評価する試みについてもご紹介頂いた。アルツハイマー病は近年では早期治療によってその進行を遅らせることが可能となりつつあり、診断手法・基準の確立は臨床の現場において差し迫った課題の1つである。この試みの実現には正確かつ簡易な瞳孔計測技術が不可欠であり、手法として確立されれば社会的に極めて大きな意義を持つことは明白である。また、講演では現在の所属研究室で開発されている齧歯類での眼球運動計測装置についてもお話し頂き、飯島氏の携わってきた眼球計測技術の汎用性の広さが印象に残る講演であった。
日時 | 2010年5月20日(木)17時30分~19時00分 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟5階502室 |
報告者 | 高浦 加奈(玉川大学脳科学研究所・嘱託研究員) |