【レポート】
第3回 カリフォルニア工科大学短期研修



玉川大学では、脳科学研究所が中心となり、研究連携拠点であるカリフォルニア工科大学(以下Caltech)と協力し、世界最高水準の研究基盤を作り上げ、さらにその基盤を生かし、世界をリードする創造的な人材の育成に向けた研究体制の構築を図っている。

Caltechとは教育研究協力協定書を締結しており、教育・研究でCaltechからの協力が得られる。Caltechでは、ヒトの潜在的な意思決定の脳メカニズムの解明や認知神経科学、また神経経済学で世界をリードする研究が行われている。玉川大学では、研究協力の一環として短期研修と、年1回のレクチャーコースの共催を行っている。2010年12月に行われた短期研修について報告する。

研修は、主に各研究室のラボミーティングへの参加という形で行われた。今回の短期研修では、順にCamerer、Shimojo、Adolphs、Bossaerts、それぞれのラボミーティングに参加させていただいた。何れの研究室も、神経経済学、認知心理学の分野を牽引する研究を行っており、研究の質はさることながら、ラボミーティングの内容もこれまで経験したことがないほど深く濃いものであった。当然のことながらメンバー全員の意識も高く、我々も単に研究内容を学ぶだけでなく、研究に対する姿勢といったものもまた学ばなければならないだろうと痛感させられた。世間の流行に乗るだけの研究ではなく、自らの発想と信念に基づいた研究を築いていかなければ、ただ表面的で中身のない偶像に成り下がってしまうだろうと感じた。また、立場の上下関係もなく、例え大学院生の意見であっても、その意図をしっかり汲み取って応対しているのが印象的であった。

Caltechでは毎月1回Neurolunchと呼ばれるランチョンセミナーが開催されており、今回は運良くそのセミナーにも参加できた。セミナーはオープンで行われ、Caltechのいろいろな研究室が持ち回りで各々の研究を発表していく。自由参加であるため、その日の演題を専門としない研究室の聴衆も多く、専門家ではないが故の質問も飛び交ったりして、そこにまた新鮮な視点が含まれているのが印象的であった。時に利害関係であったり、時に痴話喧嘩であったりと、兎角閉鎖的で隣の研究室との交流も皆無な日本の大学のあり方を問い直す必要があるだろうと感じた。

今回参加したミーティングで特に印象に残ったものを1つ挙げさせていただくとすれば、下條研究室のミーティングであろう。下條先生は知覚心理学、認知神経科学を専門としており、ヒトの認知機能の潜在的なレベルに迫ろうとしている。私たちは日常的に多様な情報や物事に触れ、その環境の中で自らが必要と判断する情報のみを取捨選択し、それらを元に自らの行動を決定しているが、果たしてそれはどこまでが本当に自らの意志に基づくものであるのか、もしかすると無意識的に、あるいは我々が気付かないうちに植えつけられた情報によって、自らの行動や判断が少なからず影響を受けているのではないか、そういうった疑問を抱かせてくれるミーティングであった。

通常外部の研究を知る手段は論文や学会での発表に限られるが、今回の短期研修によって、普段経験することができない高次のレベルの研究に触れることができ、通常の一年分の経験を得たようであった。

報告者 伊藤岳人(脳科学研究所・グローバルCOE研究員)


2010年12月1日から7日にわたり、カリフォルニア工科大学短期研修に参加した。私が特に印象的だったのはBossaerts ラボとCamerer ラボのミーティングだった。

Bossaerts先生は行動経済学分野でよく使う時間割引率という概念について、新たに生物時間割引という概念を唱えている。重要なポイントは、人または時期によって、暦上の単位の時間(例:1週間)の長さに対する感覚が違うことだ。今週1週間を5日間だと短く感じたり、再来週の1週間は8日間だと長く感じたりすることで、時間割引率は微妙に変動するのである。

下條ラボのミーティングでは、現在研究中のpriming 効果という面白い現象について伺った。例えば、誰かが心の中で歌っている歌のリズムを、指で机を叩いて表現するとする。周りの人はそれだけではどんな歌なのかわからないが、事前にその歌を教えてもらうと、机を叩く音を聞けばすぐその歌が頭の中に浮かんできてしまう。逆に机を叩く音が意味のない音だと考える事はできなくなるというものだ。

今回はCaltech で様々な新しい研究を知り、高名な研究者とも論議することができて非常に有意義な研修だった。

報告者 Fan Hongwei(玉川大学大学院脳情報研究科・博士課程後期)