【レポート】
第2回 玉川大学脳科学研究所リトリート

日程:2013年2月18日(月)~2月20日(水)
場所:箱根湯本(湯本富士屋ホテル)


昨年度からスタートした脳科学研究所リトリートですが、ふたたび箱根湯本に集い、第2回目を開催します。リトリートとは日頃の環境を離れて、研究成果や新しい研究アイデアの交流などを研究所の皆で計るとともに、脳情報研究科・工学研究科脳情報専攻の大学院生のキャリアパスを考える機会として開催する合宿形式の研究交流会です。

昨年度は学生・PD のみのシングルトラック発表でしたが、本年度は学生・PD の発表はもちろん、研究科所属の先生方のラボの方針等についてもトークをお願いしました。また国外でラボを主催され活躍されている先生と、企業で研究を推進しておられる先生を講師としてお招きし、ご講演いただきました。



招待講演者(敬称略):

 坂田 秀三 (Univ. of Strathclyde science)

 山川 宏 (富士通研究所/ 研究人生を楽しむ会)


オーガナイザー:鮫島 和行・松田 哲也(玉川大学脳科学研究所)





2013年2月18日から20日までの3日間にわたって、参加者による研究成果の発表が行われました。まず研究室のPIが研究室の現状や研究の方向性を話し、続いて研究員、ポストドクター、大学院生が1人12分で口頭発表と質疑応答を行いました。プレゼンテーションスキルの向上や今後の研究を豊かにするためには必要なことであると思います。3日目にはポスター発表も行われました。これら口頭発表とポスター発表を通して、お互いの研究を知るとともに、交流が深まったと思います。

招待講演ではUniversity of Stratclyde の坂田秀三氏と富士通研究所の山川宏氏のお二人から、ご自身の研究やキャリアパスについてお話を聞くことができました。

山川宏氏は人工知能の研究をしており、まず汎用人工知能を目指した研究の歴史について、続いてフレーム問題への取り組みについてお話しくださいました。特に、脳に学んでフレーム問題を解決するという立場から、汎用知能や創造性、直観を実現する独創的な計算機の開発を目標とした研究について聞くことができました。また、企業における研究の位置づけや組織文化、キャリアデザインについてもお話しくださいました。特に企業研究所における脳研究の話では、実験ラボとのコラボレーションや専門家の確保、海外との連携について聞くことができました。

外部講師のお二人の国内外での研究活動、企業の研究環境について聞くことができました。ポストドクターや大学院生にとって、研究者としてのキャリアパスを構築する上で非常に参考になったと思います。

今回のリトリートでは、新しい試みとして集団討論会も行われました。今回の討論のテーマは「脳の何を知りたいのか」。このようなテーマ設定のもとで、専門の異なる人たちが議論をすることは非常に有意義であると感じました。

最後になりましたが、本リトリートの運営にあたった脳科学研究所の先生方、スタッフの皆様に厚く御礼を申し上げます。

報告者 山口良哉(玉川大学大学院脳情報研究科・博士課程後期)


本公演ではイギリスのストラスクライド大学から坂田秀三先生にお越しいただき、脳活動の状態依存性に関する先生の研究について講演と、それからご自身の研究者としてのキャリアについてもお話していただいた。

脳の状態は起きている・寝ているに関わらず、alertな状態(activated state)とdrowsyな状態(inactivated state)との間を行ったり来たりしている。これは皮質上の脳波によって分類でき、inactivated stateでは特徴的なslow oscillationが起こる。寝ている状態ではREM睡眠がactivated state、徐波睡眠がinactivated stateにあたる。坂田先生はその脳の2つの状態がどのようにして起き、また感覚受容にどのような影響を与えているのかについて、特に大脳皮質の聴覚野に焦点を当てて研究を進めていた。

過去の研究から視覚野にある方位選択性地図は感覚刺激がなくても、既にマップができていることが知られている。では脳は実際に感覚を受容したとき、普段の状態とどう区別しているのか?聴覚野は前後方向に音の受容帯域が並んでいるが、6層ある皮質の深さ方向にはどんな情報が表現されているのかを含め、検討した。その結果、まず表層に近い2/3層では音刺激に対して狭いチューニング、5層では広いチューニングを行っていること、そしてup state(inactivated stateで細胞がよく発火する期間)と実際に感覚を受容したときでは、層ごとの活動それ自体は似ているが、神経細胞の活動の伝搬が異なっていることを示した。

研究者として地球を半周してきた坂田先生のキャリアについてのお話も非常に興味深かった。外国で研究室をもつ若手PIとしてこれから益々の活躍が期待される。

報告者 齊木愛希子(玉川大学大学院 脳情報研究科 博士課程後期)