【レポート】 若手の会談話会/2011年8月

『ミツバチの採餌戦略とリスクマネジメント:出巣時積載蜜量からの解析』
原野 健一 氏(玉川大学 脳科学研究所 嘱託研究員)

 今回の若手の会では,当学の脳科学研究所においてミツバチの研究をされている原野健一氏にお話をうかがった。

ミツバチは私たちの生活に密接に関係し欠かせない、ヒトにとってごく身近な昆虫である。また、女王ハチを中心に多くの働きハチからなるコロニーを形成し、ヒトにも似た社会構造をもつ社会性昆虫としてもよく知られている。このような近しい対象でありながら、今回の講演はハチの興味深い生態や行動をあらためて知る機会となった。

講演ではまず、ミツバチの生態についてご紹介いただいた。ハチの寿命はおよそ1ヶ月だが、羽化後に個体が担うコロニー内での役割は日齢によって決まっている。例えば、生後5日までは掃除を担当し、12日齢までは子育て、24日齢までは門番、そして外界に蜜を取りに行く採餌は20日齢以降の個体が担当している。またミツバチは肉食のカリバチなどとは違い、花蜜や花粉をエネルギー源としている。ミツバチは越冬のため、花蜜の取れる時期には毎日のように採餌に出て蜜を巣内に貯蔵しなければならない。ハチは採集した蜜を「蜜胃」と呼ばれる器官に入れて巣まで運ぶ。このハチの採餌行動に関連して有名なのは、仲間に蜜のありかを知らせるための「尻ふりダンス」だが、ミツバチ(発信ハチ)は尻ふりの時間によってエサ場までの距離を、また走行の角度によって太陽を基準とした巣とエサ場の方向関係を伝えている。くわえて、ダンスを繰り返す時間で、それが良いエサ場かどうかまでも他個体(追従ハチ)に伝えることができる。

発信ハチからの情報を受け取った追従ハチは自らもエサ場に向かうことになるが、エサ場までの飛行燃料として蜜を持参していかなければならない。しかし、燃料蜜と採取した蜜は同じ蜜胃に入れるしかないため、ここで問題が生じる。燃料蜜を少なくすれば多くの採取蜜を持って帰れるが、燃料切れでエサ場までたどりつけない可能性が出てくる。しかし、燃料蜜が多いと持ち帰る採取蜜の量が減り、また重量が増すことで飛行にかかるエネルギーも増えてしまう。では、ハチは最適な燃料蜜の積載量を判断しているのだろうか。原野氏は一連の研究からこの問題について検討されてきた。実験は、巣からエサ場までの距離を近距離、中距離、遠距離に統制し、それぞれのエサ場を見つけて戻ってきた発信ハチ、そしてその情報を受けた追従ハチが餌場に向かって出巣する際にどれだけの燃料蜜を積載しているかを調べるという方法で行われた。その結果、実際にエサ場に行ったことのある発信ハチよりも、初めてエサ場に向かう追従ハチのほうがより多くの燃料蜜を積載することがわかった。つまり、実経験がなく情報の確実さが低いときには、追従ハチは保険のために多くの燃料蜜を用意するようだ。また、エサ場までの距離が遠いほど積載する燃料蜜は多かった。これらのことからハチは、エサ場までの距離や採餌に伴うリスクによって積載蜜量を調整していると考えられる。

小さなハチがみせる興味深い行動に、参加者からは多くの質問があがった。また今回の若手の会は、玉川大学で行われている研究の幅広さを知り、研究者同士の交流を持つ良い機会ともなった。

日時 2011年8月17日(水)11 時 30 分 ~ 13時 00 分
場所 玉川大学研究センター棟1階 セミナー室
報告者 村井 千寿子(玉川大学脳科学研究所)