第2回 カリフォルニア工科大学短期研修

この度、私は2009年12月6日~13日までの8日間、玉川大学グローバルCOEプログラム「社会における心の創成 ~ 知・情・意の科学の再構築」の一環で、研究提携校であるカルフォルニア工科大学(アメリカ合衆国カリフォルニア州パサデナ市、以下、Caltech)への短期研修に参加させていただく機会を得ました。

本研修は、玉川大学脳科学研究所の学生や研究者が、脳科学分野で優れた研究を行うトップリサーチャー(Principal Investigator以下、PI)が集うCaltechキャンパスを訪問し、世界最高水準の研究者との交流をはじめ、最新レクチャーの聴講や、自分自身が進める研究について世界的な3名のPIとその研究室の研究者らに向けて発表を行い、そのフィードバックを得ることで、今後の研究の糧や気づきを得ることを目的としています。

 ロサンゼルスのダウンタウンから車で東に40分、閑静な住宅街が広がる上品な街パサデナは、ホリデーシーズンのクリスマスデコレーションで温かな雰囲気に包まれていました。初めて訪れた緑美しいCaltechキャンパスも、そこここにささやかなクリスマスオーナメントやイルミネーションが飾られ、世界最高水準の研究機関、という厳かなイメージを親しみあるものに変えてくれました。そのような環境の下、私たちは、意思決定と実験心理学の分野で活躍される下條信輔教授、経済行動の神経科学的解析を行うニューロエコノミクス(神経経済学)の世界的権威Colin Camerer教授、情動とコミュニケーションの神経心理学を開拓されるRalph Adolphs教授の3名のPIに迎えられました。

  初日は、下條先生のラボミーティング参加にはじまり、Ralph Adolphs先生のレクチャー"Localization Cognitive Functions with Lesion Mapping"を受講、本場の研究発表や議論の場、聴講者からの質疑応答などからそのレベルの高さや熱量を体感しました。また滞在期間中、マサチューセッツ工科大学やデューク大学などからのゲストリサーチャーの特別講義の聴講や、3名のPIの各研究室にて研究者間の情報交換や議論、また博士課程を修了する学生の"Defense"と呼ばれる研究成果を問う厳しい議論の場を通じて、世界トップレベルといわれるその所以を目の当たりにしました。特に、滞在3日目に実施された本研修メインプログラムである自分自身の研究発表と議論の場は、深く記憶に刻まれました。3名のPIと研究者が同じ部屋に集うという奇跡的かつ贅沢な未だかつてない場において、改善と練習を重ねた発表内容について、我々発表者全員が全力で手に汗握る緊張や興奮に包まれながら臨んだプレゼンテーションに対して、それぞれにかけがえのない忌憚のないコメントや新しい視点導入によるより前向きなフィードバックをいただき、これまでにない気づきや学びを得ました。またこれらの糧を今後の研究で最大化できるよう、最終日には再び下條先生による参加者全員それぞれ個別の研究改善のためのポイントの細やかな振り返り、励ましをいただくなど、より確かな収穫を得ることができました。

 また、もうひとつ印象深い経験としては、Adolphs先生が2009年最後のラボミーティングで里帰りする研究室メンバーと私たちに向け、60分とたっぷり時間をかけて"Living your Life ~ as a Scientist"というテーマで、科学者である以前に人間であり、大切なことは、まず心と体の健康、そして家族や友人、経済的安全、そして趣味や愉しみがあること。それらがあって科学に没頭する情熱、科学者としての卓越した仕事なのだ、という心のこもったメッセージをいただき、心にじんわりと響きました。

私たち参加者にとって、本研修は単に各々の研究に関する課題発掘だけに留まりませんでした。今後さらなる研究成果を生み出したい、という強い動機付けに加え、Welcome DinnerやFarewell Dinnerで家族ぐるみで豊かに団欒を楽しむ3名のPIとその周囲の研究者達のありのままの自然体の光景に象徴される、人としてありたい姿を目の当たりにしたことで自分自身の姿勢を見直す機会を得たことです。有能な科学者としてだけではなく、人生をどのように、豊かに生きるか。それを雄弁に体言する姿から学んだことでした。

このようなかけがえのない貴重な機会を与えてくださったGCOEプログラムならびに関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。

日時 2009年12月6日~12月13日
場所 カリフォルニア工科大学、米国
報告者 池田 曜司(玉川大学大学院工学研究科)