【レポート】 若手の会談話会/2010年7月

『Learned impulsivity; effects of contextual conditioning and nicotine on ICSS and lever-holding behavior』
澤 幸祐氏 (専修大学人間科学部心理学科・准教授)

専修大学人間科学部心理学科の准教授である澤幸祐氏は学習心理学を専門とされる気鋭の研究者である。本講演では、衝動性に関して氏の研究室で最近行われた実験結果について解説して頂いた。

大きな報酬を得るための遅延が待てなかったり(早発的行動)、もはや報酬が得られないにも関わらず行動を止めることができない(固着的行動)といった行動特性から多面的に定義される衝動性は、我々の日常的な意思決定における問題やADHDなどの臨床的問題とも関係して多くの注目を集めている。本発表のユニークなポイントは、氏が愛飲するタバコに含まれる依存性薬物であるニコチンに注目し、その衝動性に与える影響を考察した点であろう。一般的にニコチンは衝動性を高める効果があると考えられている。しかし発表ではニコチン投与は早発的行動には影響を及ぼさず、固着的行動はむしろ弱めるという興味深い傾向が報告された。ニコチンと衝動性の関係性について、これらの実験結果のみから(愛煙家が喜ぶような)結論づけるのは性急であるが、投与量や実験デザインを再度調整した今後の展開が注目される研究内容であった。

一方で、講演中のディスカッションでも話題になっていたが、行動の早発性と固着性は現象としては正反対な性質ともみなすことが可能であるが、それらを合目的的ではない行動全般として十把一絡げに衝動性と定義してしまう状況そのものに問題が内包されている可能性も感じられた。我々玉川グローバルCOEでも神経経済学との関連等で衝動性の神経基盤は大いに注目していかなければならない領域と言える。そうした中で的確な衝動性の操作的定義をどのような形で提案するか、という点が第一の試金石となるのかもしれない。

澤氏はかつて玉川のCOEプロジェクトのメンバーだったこともあり、講演には当時の研究メンバーも顔を揃え、終始和やかな雰囲気の中にも、データが示す傾向の解釈などを巡っては非常に熱心な議論が繰り広げられた。東京工業大学からの聴講者もいらっしゃり、講演後の懇親会には10名以上が参加され、心理学や神経科学をはじめ様々な話題で遅くまで盛り上がったのが印象的であった。

日時 2010年7月9日(金)17時30分~19時00分
場所 玉川大学研究センター棟1F会議室
報告者 高橋 宗良(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)